500本以上のエントリーがあったという東京国際映画祭コンペティション部門の規格に合わない作品の中から、今紹介しておくべき作品を紹介する"シネマプリズム"で上映された1本。ペルシャ湾キシュ島の観光局が、イランを代表する映画監督3人に依頼して作られたオムニバス映画です。
第1話は、海岸に捨てられたギリシャ船内にたくさんの外国製品のダンボールが漂流し、ストレスがたまって鬱状態になった女性が憑き物落としの儀式をうけるというお話。
第2話は、誰もいないキシュ島の給水所でアルバイトする学生の、孤独な日常生活を淡々と描きながら、貯めたお金で妹の結婚指輪を買うというお話。
第3話は、砂漠の中をドアを背負って歩く男と、山羊を連れて歩く娘、郵便配達、儀式を探す楽隊の奇妙でシュールな出会い。
なぁ〜んにもないところなのね、キシュ島って。どのお話もとてもシンプルで、登場人物が少なく、会話も少なく、劇中の民族音楽以外のBGMもありません。日本人の目から見た異国紹介番組ではなく、ネイティブな目で捉えられた時間と空間は、空気感からして違うし新鮮で神話的でもありました。
たぶん、この映画祭以外では観る機会のない作品でしょう。これは観るべきだ!とおススメする部類の作品でもありませんが、第3話のシュールな世界観は印象に残りました。
空と大地しかない砂漠の中を、ドアを背負って歩く男ってだけでもシュールなイメージなのですが、そのドアに番地表示がついたままなので、郵便配達人が手紙を届けに来るというのもとぼけた味がありました。
そして、首輪でつながれて歩く山羊が、とんでもなく嫌がっているんですよ。笑っちゃうくらい、前に進むのを拒んでいるのね。前脚を折り畳んでその場に居座ろうとして引きずられちゃったり、思い切り跳ね上がったり首を捻ったりして大暴れ。
でもカメラが前方からロングで狙っているときは、そうでもないの。後ろからフォローしていくカメラの時だけ、すごいご機嫌ナナメなの。
一体、なにがあったのでしょう?くすくす。この山羊さんを観るためだけでも、NHK-BSなんかでオンエアされた時はチェックしてみる価値があるかもしれません。
あと、第1話で、外国製品のダンボールに不安を抱いて固まってしまう女性が、憑き物落としの儀式に運ばれるのが新鮮でしたね。これって、ストレスからくる精神の病だと思うんだけど、延々と繰り返される太鼓と歌で直そうとしちゃうんだもんね。
この分野って、西洋文明そのものなんですね。そして、このキシュ島は、西洋文明に侵されていない場所でもあるんですね。
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