ネイティヴ・アメリカンの居留地にラジオのDJの声が響く。道の傍らに停めたトレーラーハウスの屋根からぼーっと道の様子を伝えるレポーターや、バックしかギアの入らない車を乗り回すいかれた娘たち、人気の少ない町にDJの声だけが響く。
この居留地に住む高校生、ビクトールとトーマスには、運命的なつながりがあった。
アメリカ独立記念日。パーティをしていた家が炎上し、幼いビクトールを抱えた父・アーノルドと母の目の前に、炎上する2階の窓から赤ん坊が放り投げ出された。
とっさに駆け出してその赤ん坊を受け止めたアーノルド。その赤ん坊がトーマスだった。
インディアンの戦士たれと主張する精悍なビクトールと、やたらおしゃべりで眼鏡をかけて飄々としたトーマスは、対照的なキャラクターを持つ青年となった。
ある日、ビクトールの父が遠く離れたアリゾナ州フェニックスのトレーラーハウスの中で死亡したという悲報が届いた。父は十年前に家族を捨てて蒸発していた。ビールを浴びるように飲んでいた父。怒るとすぐに殴る父。ビクトールの中で現在と過去の記憶が交錯する。
父の遺品を取りに行くための金がないビクトールに、カンパするから一緒に連れていってくれと名乗り出たトーマス。
そして2人の旅がはじまった。居留地の外は、彼らネイティヴ・アメリカンに対する好奇の目と差別意識が空気のように存在している世界だ。
旅のあいだ中、ビクトールの父についてあれこれのエピソードを語るトーマス。どこまでが本当でどこまでが嘘なのか?ともかく彼は始終話し続けている。無口なビクトールは、父を許せない思いと父がいた頃の思い出に葛藤していた。
辿り着いたトレーラーハウスでは、若い女性が出迎えに出た。医療スタッフをしているネイティヴ・アメリカンの女性だ。彼女と父は、お互いを理解し父と娘のようにして付き合っていたという。
父の遺灰を受け取るとすぐに立ち去ろうとするビクトールに、彼女は父のことを話す。バスケのうまい息子を自慢していた父。そしてあの火災は、泥酔した父が花火を振り回していたことが原因で発火したという事実。その罪の意識から家族を捨てて放浪し苦悩しつづけた父。あの夜、トーマスだけを救ったと思っていたビクトールに、父はビクトールをまず救うために炎の中に飛び込んだのよと、彼女は語った。
ビクトールは、複雑な思いで父の死んだトレーラーハウスに入っていった。そしてベッドの傍らにあったパス・ケースを見つける。その中には家族の写真が1枚入っていた。その写真を取り出し、何気なく裏を見てみると…。そこには一言、"HOME"と書かれてあった。
翌朝、2人は父が遺したトラックで帰途についた。無遠慮に聞いてくるトーマスにいらだったビクトールは、父への怒りを露わにした。言い争いに夢中になって、停車中の車を避けきれず、衝突事故をおこしてしまう。
お前のせいだ!とつかみかかってくる白人男の前で、その家族の娘が重傷なのを目にしたビクトール。トーマスに娘を任せると、彼は近くの町まで32kmの道のりを救助を求めて走った。
走りながら彼の中で「許しを乞うこと」の想いが膨らんでいく。許されるための答えを探して放浪しHOMEに焦がれていた父のこと。事故によって死なせてしまうかもしれない娘のこと。
娘は命をとりとめた。車椅子に乗ったビクトールは、警察から訴えがきていると知らされるが、それがいいがかりであることは彼の態度が証明していた。
居留地に帰ったとき、ビクトールはトーマスに預けたままだった遺灰を受け取った。トーマスのよく語るエピードに登場する滝に灰をまこうと考えていた。灰を分けたトーマスも、実は同じことを考えていたようで2人は笑った。
滝の轟音の中へ灰をまきながら、雄叫びをあげるビクトール。
彼はどんな想いで父を受け入れ、そして乗り越えていったのだろう。ここから先は、語り部でもあるトーマスの言葉に託されることになる。
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