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トゥルーマンショー
the TRUMAN show 1998 USA 103min. Vista
1998-12-27 東劇

テレビのワイドショーにしても、インターネットに溢れている個人の日記ページにしても、他人の人生を覗き見る好奇心から栄えているコンテンツですよね。
自分が見ていることを相手が気付いてないって状況は、無防備で素の状態をさらけ出している滑稽さと、そこからわき起こる妙な親近感が入り交じってきます。ストーカーへの第1歩ですね。

「トゥルーマンショー」は、トゥルーマン・バーバンク(ジム・キャリー)の人生をまるごと覗き見るエンターテイメント番組。
望まれずに生まれてきた赤ん坊を、テレビ番組が養子にして、24時間彼の行動をオンエアし続けています。世界中の人間が、テレビの向こう側で生活しているトゥルーマンの人生を覗き見て、人生を共有しています。
自分の人生がテレビ番組になっていることを、トゥルーマン自身は知りません。彼が無防備に素の状態でいられるよう、彼以外のあらゆることが番組制作者側でコントロールされているからです。
舞台となる小島の街シーヘブン、街の住人、テレビやラジオ番組など、すべては「トゥルーマンショー」のために造られたもの。
トゥルーマンがどういう行動をとるか、5000台に及ぶカメラがあらゆる場所で彼の姿を捕らえ続けます。
これほど大がかりな装置、スタッフ、キャストを使っても十分に採算があうほど、この「トゥルーマンショー」は大成功している番組なのです。
この番組を創り出したのは、TVプロデューサー・クリストフ(エド・ハリス)。
彼は、シーヘヴンという楽園とそこに生きる人々を支配する神のような存在であり、モニターに映るトゥルーマンを見つめる目には父親のような慈しみさえ感じられます。

ただし、すべては番組としての成立していることが大前提のこの世界。
いかに完璧にコントロールされた世界といえど、その土台にはコントロールしきれない現実と人間がいるわけです。しかもハプニングがつきものの生番組。
突然空からライトが降ってきたり、雨が半径数メートルのシャワー状に降ってきたり。
そして、海で死んだはずの父親が浮浪者姿で現われ、すぐに数人の人間に連れ去られてしまったことから、トゥルーマンの中にこの世界に対する疑問がはじまります。そしてある日、カーラジオのチューニングがずれて聞こえてきたのは、エキストラに指示を与える無線の声。


■


SF的な発想をする人だったら、この映画に似た設定を思いつく人が他にもいたかもしれませんね。ただし、そのアイデアをこのようなストーリーで映画にできた人はいなかった、ってことでしょう。

同じ設定でも、プライベートが一切ないトゥルーマンの人権に重点を置いてしまったら、かなりつまらない映画になっていたかもしれません。
トゥルーマンに関わる人々のちょっとしたボロ、不審な言動から、じわじわと自分を取り巻く世界に対する疑問へつながる展開が見事でした。
とくに生活を共にする妻のメリル(ローラ・リニー)の作り物めいた接し方。仕事として夫婦をやっているのだから凄いですよね。ただし、仕事を超えたトゥルーマンへの感情を持ってしまうと、番組進行上の妨げになるとしてキャストからはずされてしまうから、みんなウソっぽい接し方しかできないようなのですが。
そんな中、幼なじみで親友のマーロンさえも、たんにキャストの1人なんだと思うと、やりきれない想いがわき起こってきます。

ウソで固められた世界。ただしそこは、凶悪な暴力が存在しないアメリカが恋い焦がれる40〜50年代の古き良き時代を模倣した世界。
皮肉ですね。たとえ憧れの時代を模したとしても、そこは天国じゃないんですから。
なんか、ディズニー・ランドにもそういう気配がありますよね。コントロールされた天国という。

さらにアメリカ的だなぁと思ったのは、テレビに釘付けになっている人たちのリクアションが、間々に挟みこまれるところ。
これ、「奥様は魔女」に代表されるアメリカのテレビ・ドラマで、観客の笑い声が入るのと同じ効果ですよね。観客をストーリーから一歩引かせて、次の展開のリアクションそのものを誘導させているんです。画面の中の画面に感情移入させるテクニックですね。

オーストラリア出身のピーター・ウィアー監督は、視覚的な幸福感ときめの細かい人物描写によって、上質なエンターテイメント作品に仕上げました。 役者や美術や撮影も、一流の仕事をみせてくれました。素晴らしい作品です。
ジム・キャリーがこれまでの芸風からは想像できないほどの好青年で、しかもシリアスな心理状態を明るいトーンのまま演じきったところが驚きでした。往年のハリウッド・スターであるジェイムズ・スチュワートを目指しているという彼が、一気にそのレベルに近づくことができた役柄だったと思います。
そして、物事の中心に位置する人物を演じさせたらこの人以外にはいない、クリストフ役のエド・ハリス。「アポロ13」の指揮官役が印象に強いせいか、世界の創造主のようにコントロール・ルームにいる彼は、ハマっていました。
体の動きがほとんどなく、顔と声だけの演技。それが、ラストの神話的なシーンに深さを与えているんですよね。

そう。人間は所詮、エデンの園から旅立たなきゃいけない存在なんです。


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