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『エンゼル・ハート』のストーリーを、字幕と〈画面〉から私が読み取った内容で、追っていきます。このページでは、金髪美女からジョニーに関する情報を得るシークエンスから、最初のフラッシュバック、コニーアイランド、ルイジアナへ舞台が移りマーガレットと会うところまでを紹介します。
情報収集は女の力を借りて
ボクシングの試合中継をみている金髪女性は、バーのカウンターで誰かを待ちくたびれているようだ。
そこへハリーが、コートを肩にひっかけて現れる。
「11時過ぎよ。遅いのね」と軽く文句を言う金髪女性に、さっとキスをして謝るハリー。
女は「私、クビになったらあなたの秘書になるわ」と言いながら、足下に置いた鞄から書類封筒を取り出す。ハリーは女の言葉を受けて「”タイムズ”ほど給料は払えないし、社が君を手放さないよ」とかわし、封筒から数枚の写真を取り出す。それはジョニー・フェイヴァリットの写真だ。

ベッドの上に腰掛けて、靴を脱ぐ金髪女。忙しそうに服を脱ぎながら、ジョニーについての情報を伝える。
「ジョニーは歌手だったの。大物でスパイダー楽団の所属だったわ。スパイダーはこの町にいるの。メモしといた。138丁目の老人ホームにいる。」
ハリーは女の背から胸に手をまわしながら「いいぞ、ハーレムか」
女はガーダーベルトを自分ではずしながら報告を続ける。「ジョニーにはトゥーツという友達がいた。ギター弾きなの。婚約者も分かった。マーガレットというの。ルイジアナの令嬢よ。ジョニーと高校で知り合い、結局はフラれたの。彼女はお呪い(おまじない)に凝ってたみたい」
ハリーは言葉の最後に反応して「お呪い?そりゃ何だい?たとえば気味の悪い目とかカエルの脚とか?」
そしてベッドに腰掛けてしまう。Hする気分が失せてしまったようだ。
女は言葉を続けながら、ハリーの背中をやさしく撫でていく。
「少し変わった女性で、社交界で魔法をかけたりしてたらしいの。まわりから”魔女”と呼ばれていたみたい。──気持ちいい?」
ハリーはにっこりして「素晴らしいよ」と答えるが、途方に暮れたように呟く。「だとすると捜す相手も魔法でいかれた奴か。こいつは少し面倒だな。本人は自分が誰かさえ知らんだろう」
くわえた煙草にマッチで火をつけながら、関係人物の名前を挙げていく。「ハーレムの老バンドリーダーとトゥーツというギター弾き…ほかには?」
女は「気分でた?」と聞いてくるが、ハリーは黙ったまま顔の半分がまっくらな影に落ちている。
──若い兵隊を出迎える女たちのお祭りがフラッシュバック。
ハリーの様子が変なことに「どうかしたの?」と言う女。
何も言わず物思いに浸るハリー。
高額なギャラを提示され、本腰を入れた調査が必要と感じたハリーは、「タイムズ」誌に勤める金髪女性に、人気スターだったジョニーの情報を引き出させます。いかにもハードボイルドな展開です。ハリーは、自分が魅力のある男だと自覚して、それを利用していますね。
ここで一気にジョニーを取り巻く人物関係が語られます。これからの展開にとても重要な情報なのですが、2人がこれからSEXにもつれこもうとしている画面に目と意識が行ってしまい、語られている人物関係が頭をスルーしてしまうのが困りもの。あとで、もう一度フォローされますけどね。ジョニーの人間関係については。
ジョニーの婚約者マーガレットが、お呪いに凝っていたという話で、邪教のシンボルに埋め尽くされた棚を思い出したのでしょう。ハリーはHな気分が萎えて、かわりにある記憶のフラッシュバックに襲われます。これは何の記憶なのか?
フラッシュバックに襲われる前、ハリーの顔半分がまっくらな影に落ちます。ダークサイドへ半分持って行かれたかのように。
これは演劇的な照明効果とも言えますが、部屋の中の照明器具からだけの光で、影ができているように見せているのがうまいですね。日本のTVドラマでは、部屋全体を明るくして、人物がどう動いても影ができないようにライティングしてしまいますが、この映画では影をあえて作るために、光の存在を限定させているのが特徴的です。日中、建物の中にいる場合、部屋の照明はつけずに(撮影用照明は存在しているはずですが)、窓から入る外光だけで人物を浮かび上がらせています。横からの強い光だけで浮かび上がる顔は、些細な表情の変化をドラマティックに映し出します。

中近東風の怪しい曲が流れる。
──きれいな弧を描く階段、エレベーターのアコーデオン式ドアが、音を立てて開く。
鉄製の格子が、床に影を落としている。
──細長い窓が並ぶアパートの外壁。1つだけオレンジの明かりがついた窓があり、そこにゆっくりとカメラが寄っていく。窓の下には換気扇が回っている。
──弧を描く階段を、黒づくめの人影が、白い洗面器の中にブラシを入れてあがってくる。
──オレンジの明かりがついた窓に、男の叫び声が重なる。
──弧を描く階段を、黒づくめの人影が、白い洗面器の中にブラシを入れてさらにあがってくる。
──廊下を歩いてくる女性用ブーツのアップ。椅子に座って脚先をきちんと揃える。
──高回転でまわる換気扇。
ハリーを襲うフラッシュバック。いつも同じイメージが繰り返されます。
『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』でアラン・パーカー監督のファンになった私としては、このイメージのシャッフルにはゾクゾクしてしまいます。無関係に見えるこれらのイメージは、どこでストーリーと合流してくるのでしょう。
回る換気扇が何度も何度も繰り返し画面に登場します。目に焼きつくように。それはまさに、目に焼きついたイメージなのかもしれません。ある人物の死の直前に見た光景として。

回る換気扇から、回転するオープンリールのアップにつながる。
ハリーは調査報告をテープレコーダーに吹き込んでおり、これまでの経過をおさらいする。
「1955年1月3日、客はルイス・サイファー。弁護士ワインサップの紹介。ジョニー捜しを依頼された。この12年、入院中のはずの病院にはおらず、ケリーという男と一人の女が連れ去っていた。女の正体は不明だ。ケリーは2万5000ドルで医師を買収し、ジョニーが入院中と装わせた。その医師はすでに死亡した。」
テープ再生を止め、ここからマイクを持ってその続きを吹き込みはじめる。
「その昔ジョニーは人気者だったらしい。でも次第に人間嫌いになった。ぼくはまずスパイダーを訪ねた。彼は今、ハーレムの老人ホームに住んでいる。場所は138丁目だ。ジョニーにはギター弾きの親友も一人いた。トゥーツという男。今、ニューオリンズに戻ってる。マーガレットやジョニーもそこにいそうだ。スパイダーの話では、ジョニーに秘密の愛人がいた。イバンジェリンという黒人女だ。彼女はハーレムで怪しげな薬屋をやっていた。マダム・カーターの店だ」
ハリーはテープレコーダーのスイッチを止める。「サイファーさん、秘密の恋は…、秘密のままがいいね」
回る換気扇から、同ポジションで回るオープンリールに変わるのがいいですね。
ドラマで説明的なセリフが出てくると、途端に興ざめしてしまう私ですが、探偵が調査の記録としてテープに吹き込むという状況ならOKです。アラン・パーカー監督のやることですから、これまでの経過を〈まとめ〉としてご親切にも整理してくれている〈だけ〉ではないからです。もちろんここで〈まとめ〉があるおかげで、込み入ってきた人間関係の名前を再確認することができます。金髪女性とHにもつれ込みながら語られるジョニーの周辺情報は、画面に目が行っちゃって、頭に入りにくいですから(笑)
ジョニーが所属したスパイダー楽団の老スパイダーを、ハーレムの老人ホームへ訪ねるシーンが、報告のトークに重ねて要領良く描かれます。老スパイダーは、久しぶりの来訪者にすごくうれしそうな顔をしていました。
そしてここまでの調査で、ハリーがこの案件を「秘密の恋を暴くこと」だと勘違いしていることが、なるほどね、と思わせます。それが私立探偵ハリーの現実認識の範囲なんですね。
コニーアイランドと鼻のシャッポ
さらにつづけてテープレコーダーを動かし、吹き込みをつづける。
画面はロングアイランドの観覧車が見える場所へ。録音する声がつづく「もう一人、彼がよく会っていた人物は、手相見の女性、マダム・ゾーラだった。」
オフシーズンなのか遊園地はゴミでいっぱい。軒下ではねずみが食べ物の残りをあさっている。
コニーアイランドの観覧車前に広がる砂浜。人気のない砂浜に、ビーチチェアを出して座っている男がいる。
ハリーは彼に話しかける。「向こうの男にあんたのこと聞いてね。マダム・ゾーラを捜してる」
男は、サングラスに鼻のカバーを取り付けている。「知ってる。戦前、女房の友達だったよ。薄気味悪い女だった。女房の親友さ。要はバプテストでね」
男は傍らの箱を持ち上げ、ハリーにも鼻のカバーを差し出す。「鼻のシャッポだ。1つ取りな」
ハリーはコートの裏ポケットからメガネを取り出し、もらった鼻のシャッポを取り付けてみる。そのおバカな鼻つきメガネをかけ、男に尋ねてみる。「ジョニーという名前、聞いたことは?」
「歌手の?」男の反応は早かった。正面の海を指さしながら、「女房に聞けよ。いつもラジオを聴いて流行歌を歌っていた」
波打ち際より少し入ったところに、少し太った中年女が股のあたりまで海に浸かっている。
「海は嫌いなんだけど、体のため。静脈りゅうの治療さ」と鼻シャッポの男は女房の行為を説明する。
波打ち際まで来たハリーだが、靴が濡れるので中年女性に近づけない。大声を出して話しかけることに。
「マダム・ゾーラのことを尋ねたい」
中年女は海の中に立ったままで「戦前、知り合いだったわ。ゾーラね?この近くに小屋を持ってたわ。それに社交界のお嬢さんよ。ジプシーじゃない。ジョニーはよく来ていたわ。彼女、夢中で…。私も彼のヒット・ソングは全部知ってるわ」
ハリーはさらにつっこんで「マーガレットという名前は?」
すると中年女からは意外な答えが。「とぼけないでよ。ゾーラがマーガレットだわ」
ハリーはめがねをはずして尋ねる。「彼女はどこに?」
「ある日突然店じまいして。南部へ帰ったわ。」
「ジョニーの居所はご存じですか。」
「たぶんお墓でしょうね。彼の歌、聞きたい?」
そういうと中年女は勝手に歌い出した。<君のために、泣いたよ〜。だから今度は君が泣く番だ〜♪>
あまったるいメロディーの曲だ。
ハリーはビーチチェアに座っている男に礼を言う。
「鼻のシャッポを有りがとう。役に立つよ」
「どこで?」
「ルイジアナ」
「いいね!」

このコニーアイランドのシーンは、やたら強く印象に残っています。この風景が好きだからというのもありますが、空を大きくとったシンプルで開放的な画面構図が、構築的で意味深な他の映像とあまりに違うからかもしれません。それにドリフのカトちゃんメガネのような鼻のシャッポ!海に下半身だけ浸かっている中年婦人の妙さ。ジョニーの歌だと言って歌い出す、あまーくへたっぴな歌。
それらディテールの印象が強すぎて、何度観ても「はて?ハリーはここに何しに来たんだっけ?」って思ってしまうのです。直前に語られた言葉をすっかり忘れちゃうんですよね(苦笑)
ジョニーと親しかったマダム・ゾーラの消息を訪ねてここに来て、マダム・ゾーラはジョニーの婚約者マーガレットと同一人物と分かり、彼女の故郷であるルイジアナ向かうことになるわけですよ。さて、舞台はルイジアナへ。
ルイジアナへ─マーガレット
薄手のよれよれジャケットを着て、ハリーが駅のホームを歩いてくる。
暑さにジャケットを脱ぎ、鼻のシャッポ付きメガネをかける。
オールド・スイングの音楽が流れる。
ストリートでは、黒人の子ども達がブラスを吹き、タップダンスを踊っている。
ハリーはホテルで着替えると、まず「トゥーツ・スィートとその楽団」の広告を見て、
メモを取る。そして、TEA ROOMのガラス窓に貼られたフライヤーから「マーガレットの手相と星占い」を見つける。
(広告には MADAME KRUSEMARK と書かれている。マーガレットのフルネームは、マーガレット・クルーズマークだ)
路上に雪が積もるニューヨークから、一気に汗ばむルイジアナへ。画面の色調もブルーを基調にした画面から、オレンジ基調の画面へ。
そこは音楽にあふれた南部の世界。そしてニューオリンズ・ブードゥー教の地。
品の良い細身のご婦人が路上電車に乗り込む。
その女性を尾行していたハリーは、発車してすぐその路面電車に飛び乗る。
ピアノの美しい音楽が流れる。
その上品なご婦人こそマーガレット(シャーロット・ランプリング)だ。
彼女の斜め後ろに座っているハリーは、彼女が髪をかきあげて首のうしろをさする姿を、じっと見つめている。
停車駅で降りるマーガレット。少し遅れて降りたハリーは、細い木の傍らに立って、恋するかのような顔で彼女をじっと見つめている。
ここまで私立探偵ハリー・エンゼルのハードボイルド映画として展開してきたので、マーガレット役にシャーロット・ランプリングが登場したことに「キタ━━━(゜∀゜)━━━ッ!!」って感じです。
レイモンド・チャンドラー原作、私立探偵フィリップ・マーロウを主人公にしたハードボイルド映画『さらば愛しき女よ』のシャーロット・ランプリングですよ!
〈越後のちりめん問屋〉なる老人が、護衛2人を連れて旅していたところ、由美かおるが出てくるようなものかも(言い過ぎか)
ともあれ、マーガレットを見つめるハリーの目がいいですねぇ。憧れの女性に出会ったかのような目が。それもまた伏線なのですが。
「M.Krusemark」の表札がついた呼び鈴を押すハリー。
ドアが開き、さきほどのご婦人が現れる。
部屋に通されるハリー。たくさんの植物とオレンジのランプに飾られた部屋が美しい。
ハリーはすばらしい部屋だと褒め、「占いは初めてですが、時間はかかりますか」と尋ねる。
「今はお話を伺うだけ。数日後に結果が出ますわ」
2人は向かい合って座る。ハリーは落ち着きがなく、後ろにあった装飾的なナイフを手に取り、しげしげと眺めている。弧を描く刃先が特徴的なナイフだ。
マーガレットはフランス語で黒人のメイドを呼びつける。ノートを広げながら、ハリーにダージリンか、ウーロンかを尋ねる。
ハリーはナイフをサックに納め、ウーロンを選ぶ。珍しい好みね、とマーガレットに言われ、ふふっと笑ってナイフを後ろの棚に戻す。ついでにピアノの鍵盤を叩き、音を出して遊んでいる。とにかく落ち着きがない。
「ピアノを弾くの?」と聞かれ「いいえ、別に」とちょっとかしこまって答えるハリー。
唐突に、テーブルの上にあった写真立てを指さし、「このイヤな顔の男は誰です?」と聞く。
「私の父よ」という返事に、無邪気な笑顔で「どうも失礼」と謝ると、マーガレットも「父も嫌ってるわ」とちょっと微笑む。
「昔、海賊映画で見たような顔ですね。名前は?」
「イーサン。イーサン・クルーズマーク」
「この名前は知らないな」
これまで名前だけ語られてきた、お呪いに凝っていたジョニーの婚約者マーガレット。
もっと癖のある外見、それこそゴス系というか魔女っぽい感じを想像しそうですが、こんな上品で凜とした女性なんです。なんといってもシャーロット・タンプリングですから。退廃的でエロい方向でなければ、謎の女性とか、近寄りがたい気品さを持った女性という雰囲気になりますね、やっぱり。出演時間はほんの少しなのに、彼女クラスの女優がキャスティングされるのは、マーガレットという女性の存在感が必要だったからです。不在の順主役ジョニーの婚約者ですから。
マーガレットが占いをする部屋は、窓からたくさんの光が入り、観葉植物やオレンジの室内灯がアクセントになっている、リラクセーション・スペースのような空間です。
それでも彼女は、悪魔崇拝者なんです。
さて。映画を制作者の側に立って観ようとした場合、画面に映り込んでいるものにどうしても気がいってしまいます。
ここでは、〈昔、海賊映画で見たような顔〉をしたマーガレットの父親の写真立てです。
たんに2人の出会いを見張っているかのように見せたいのか、ただの小道具なのか。意味ありげに画面配置されているのが気になるのです。
〈海賊映画〉と言えば『パイレーツ・オブ・カビリアン』シリーズを思い出してしまう今、昔の海賊映画で見たような顔ってどんなだ?と疑問なのですが、分からないのです。知識をお持ちの方がいらしたら、是非教えてください。

煙草を吸おうとしたハリーを、「遠慮して」とマーガレットは穏やかに注意すると、ティーカップを手渡す。
「お誕生日を教えてください」
ハリーは答え始める「ぼくが生まれたのは2月14日です。1918年のバレンタインデーですよ。」
──ここから2人の座る中間とマーガレットの左側に、父親の写真立てがいつも画面に映り込んでいる。まるで2人を見張っているかのように。
マーガレットはノートに書きながら「ふしぎね。昔、同じ誕生日の男を知ってたわ」
ハリーは冷静に反応して「ほんと?そんな偶然もたまにあるでしょ。その男の天宮図を出せば時間の節約だ」
「そうは思いません。人それぞれに運勢は違いますから。…生誕地は?」
「ニューヨークのブルックリン」
ハリーはカップをテーブルに置き「その友達はヘンな男?」と反応をみるように聞く。
マーガレットは受け流すように「そうですね」とだけ。
ハリーのアップになる。「仲が悪かったんだな、ジョニーと」
マーガレットはノートから目をあげない。
ハリーはさらに反応を見ようとして「どうでした?君とジョニーとの仲は」とさらに突っ込む。
マーガレットはようやくノートに落とした視線をあげてハリーを見る。ハリーはニヤッと笑う。
マーガレットは凛とした表情で「あなた誰?」
「彼とは戦友だった。確か君と婚約していたね」
マーガレットはパタンとノートを閉じる。
怒らせてしまったと思ったハリー「すまん、ウソをついた。ぼくは私立探偵なんだ。誕生日もバレンタインデーじゃない。ジョニーのことを知りたい」
「ジョニーはもう死んだのよ、12年前に…。さあ、帰って下さい」と言うとマーガレットは席を立って玄関ドアの方へ歩き出す。
ハリーはあとを追い「おかしな男が何を探りに来たのかと思って、迷惑がる気持ちは分かるけど…」
「私にとってジョニーはもう死んでるの」
ハリーは彼女の左耳にかかる髪を撫で、同情するように「傷つけられたんだね」
「誰にでも傷はあるわ」マーガレットはドアを開く。
「事情は分からないが、君を手放すなんてバカな男だ」
「ウソや冷酷さが平気な人間もいるのよ」話を切り上げるために、握手の右手を差し出す。
ハリーも右手を出して握手をする。「手相を見てもらえなくて残念だよ」
マーガレットは握っていたハリーの手をとって、さっと手相を見る。
「いい手相じゃないわ」
「美しいネックレスだ」マーガレットのネックレスがアップになる。そこには逆ペンタグラムが刻まれている。
部屋を出ていくハリー。
ハリーは、彼女の前では、まるで憧れの女性を前にした少年のようです。
ジョニーの生年月日で彼女の反応を見ようとして、相手が怒ってると分かったら、謝ってしまうあたり。男を脅すやり方に比べたら甘いですよね。それがハリーという男の優しさでもあるし、かわいいところでもあります。
「ウソや冷酷さが平気な人間もいるのよ」ジョニーのことを言っているのか、さまざまな人の運勢を見てきて、悟りに近い心境から出た一般論なのかは分かりません。でも他人を寄せ付けない、心を閉じているような彼女の雰囲気から、心に深い傷を負っているのだろうとは予想がつきます。
ハリーとの別れ際に見えるネックレスのアップで、ペンタグラムが逆位置になっている「悪魔崇拝者」の印を目にします。サイファーと同じ文様のアクセサリーをしていることに、ハリーは何か気づかなかったのでしょうか。無意識には当然気づいていたはずです。もしかしたら彼女への想いも、少しは残っていたのかもしれません。
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