ホーム > MOVIE, 「エンゼル・ハート」を読む > 映画『エンゼル・ハート』を読む[5]

映画『エンゼル・ハート』を読む[5]

2009 年 9 月 6 日 TZK

▼このページの本文へ

映画「エンゼル・ハート」を読む  |123456789次のページ>>

『エンゼル・ハート』のストーリーを、字幕と〈画面〉から私が読み取った内容で、追っていきます。このページでは、ハリーの血で汚れたシャツと剃刀の幻影から、2人の刑事が訪ねてくるところ、1943年ニューヨークのフラッシュバックマーガレットの死彼女の父親からの刺客にハリーがぼこぼこにされるところまでを紹介します。テキスト量が他のページよりちょっと多いのですが、ご容赦ください。

──回る換気扇。
──エレベーターのアコーデオン式ドアがひとりでに開く。鉄製の格子の影が、床と壁に美しくのびる。
──曇りガラスの向こうに人影が近づいてくる。ドアを開けて入ってきたのはハリーだ。
──よれよれのジャケット下に着たシャツは、血まみれになっている。
──古い集会場のような場所。並んだ木製ベンチの正面には、向かい合って置かれた椅子が1つある。
ベンチの端には、黒ずくめの人影が座っている。

──下降してくるエレベーター。鉄製の格子の影が、壁の上方に向かってのびていく。
──ベンチに座る人影に向かって、ゆっくり近づいていくハリー。
──足下に血がこびりついた剃刀が落ちている。それを右手で拾いあげ、何かを確かめると、力なくぽろっと落とす。
左手が血で汚れている。その左手を右手で包むように握ると、血があふれてくる。

──サキソフォンの音楽と不安な旋律の合唱が鳴り響く。
──気がつけば、自分のシャツが血でびっしょり汚れている。
──顔が蒼白くなり、ベンチに座る黒い影を見つめるハリー。躊躇しながら、その黒い人影に手を触れようとする。

黒づくめの人影

ファウラー医師を訪れた後の幻影シーンと同じように、トゥーツの部屋を出て行った後に現れる幻影シーン。
座席の前の方で、影のようにじっとうずくまった黒ずくめの人に、触れようと近づくハリー。
以前そうしようとしたのは、ハーレムの教会の中。壁に飛び散った血を洗い落としていた黒衣の女だと思ったから。
ルイジアナの地に来て、地下集会場のような場所にいる、同じような黒ずくめの人影に近づくのは、何のため?意識に焼きついた残像だから?それとも何か鍵を握る使者かもしれないと思ったから?
気がつけば、ハリーのシャツは血まみれです。腹部に大きな傷があるかと思うほど、血で汚れています。ジャケットは汚れていないので、シャツが血で汚れてから羽織ったのでしょう。
剃刀はトゥーツの部屋にあったもの。トゥーツの剃刀で切りつけられた左手からは、次々と血が溢れてきます。
まさに悪夢をそのまま映像にしたようなシークエンスです。

2人の刑事

ガタンという音に気づいて目覚めるハリー。
気がつくと、自分の部屋にふとっちょ白人とまじめそうな若いスーツの男が、家宅捜索している。
起きたての顔で汗びっしょりのハリー。「デカはノックもしないのか?」
ふとった白人刑事が言葉を受けて、「私立探偵は寝坊だな。夢を見てたか」
ハリーはベッドから起き上がり「夢の世界で遊んでいた」とカッコつけてきり返す。ベッド脇に備えられた小さな洗面台の前に立つと、水を流しはじめる。
若い方の刑事が床に置かれた洗面器につまずき、拾い上げる。「かなり雨漏りするようだ」
ふとった刑事は紙切れをハリーに差し出し、「これ、君の名前か?」
顔を洗ったハリー、紙切れを受け取ると、まだきちんと水気を拭いていない手でメガネを取り、紙切れを確認しようとするが、一度刑事の顔を見て焦点をあわせてから、あらためて紙切れに目を落とす。
「君のホテル?」
ハリーは顔から水をしたたらせたまま「つまり、ここだよ」と答える。
「君の筆跡?」
ハリーはベッドに腰掛けて「そう思うよ」
ふとった刑事もハリーと向き合って腰掛ける。「そのメモを、死んだギター弾きが握っていた」
ハリーは右手を口にあて、次に顔を上げ、メガネをはずしてから「死んだ?」
ふとった刑事は煙草をくわえ「トゥーツがね」くわえた煙草を一度はずし「死ぬのに時間がかかったよ」煙草を口にくわえ直して「客観的には、自分の性器で窒息死した」今度こそ煙草に火をつける。
ハリーは問いかけるように「それを説明すると?」
ふとった刑事はあらためて「誰かが性器を切り、口に押し込んだ」若い刑事が言葉をつなぐ「そして血を部屋中にふりまいた」
「彼にはいつ会った?」
「昨日の1時ごろ会った」
「何の用件で?」
ふとった刑事が尋問している間、若い刑事はハリーの銃を調べていたが、何もないというようにベッドへ銃を放り出す。
「尋ね人だ」
「誰を」
「12年前に消えた男でトゥーツと友達だ」
ふとった刑事は、ベッドに放り出された銃の銃口の匂いを嗅ぎながら「そいつの名前は?」
「言えないね。依頼人はN.Yの弁護士だ。ワインサップ。住所や電話は、君の相棒に聞いてくれ。彼が見ている手帳に書いてあるよ」
ちょうど若い刑事がハリーの手帳をまじまじと見ている。「プロ野球選手も知ってる?」
ハリーはベッドの背もたれによりかかる。「もう、おしまいだろ?」
ベッドに腰掛けていたふとった刑事も立ち上がり、ハリーに念を押すように言う。「昼食でも食いに行け。遠くにいくなよ」
頷くハリー。
出ていこうとする刑事の若い方に声をかけるハリー。「田舎のデカも忙しい」
だまって見つめ返す若い刑事。
「今日は何曜だと思う?水曜だろ」頼むよ、おい、という顔になるハリー。「”事故に注意”の日さ」

黒ずくめの人影に近づき、触れようとすると、もう少しのところで届かない。突然眠りから起こされ、夢がカットアウトするかのように。今回はまさに、勝手に部屋へ入って捜査をしている2人の刑事が立てる物音で起こされます。
ハリーの寝起きの顔がいいですね。寝汗でびっしょりの寝ぼけ顔。
これまで画面を文章化してきたものを読んできて、ハリーの癖が分かったかもしれませんが、彼は意識を向けようとする対象を前にすると、一度視線をどこかあらぬ方向へはずしてから、改めて対象を見るんですよね。
刑事が手渡すメモを受け取り、メガネをかけて、一度刑事の顔を見てから手に持ったメモに目を落とすハリー。メガネをかけて刑事を見る時の顔が、すっごく味があっていいと思うのは私だけでしょうか。すっごくおっさん臭い味なんですけど。

メガネのハリー

刑事がこの部屋に来ているのは、トゥーツが〈性器を切り取られ、口に押し込まれて窒息死〉して、この部屋の連絡先が書かれたメモを握っていたからです。〈性器を切り取られ、口に押し込まれて窒息死〉という殺害方法は、その後、映画『セブン』にも出てきましたね。猟奇的で、性に対する何かの罪を罰しているかのような殺し方です。
なぜトゥーツは、性器を切り取られなくてはならなかったのでしょう。口をふさぐのが目的であれば、別の殺し方だってあったはずです。
セリフで直接語られてはいないのですが、察すると、ジョニーと親友だったトゥーツの間には、肉体関係があったのかもしれません。ジェームス・ディーンも、相手は男女両方でしたから、カリスマ性あるスターの性癖としてはあり得ます。でなければ、エピファニーの子どもの父親はトゥーツかもしれないという可能性。もう死んでしまったので真相は分かりませんが、墓まで一緒に持って行こうというレベルの秘密は、そのあたりではないかと推測してしまう私です。

1943 NEW YEAR のフラッシュバック

バーの店内にある公衆電話から、マーガレットに電話をかけようとするハリー。
サキソフォン吹きの黒人が、カゴを持ってお客さんから小銭をもらっている。
受話器を耳にあてるハリー。ふと目の前にある鏡に映った自分の顔を見つめる。まるで他人をみているような目で。
──下降するエレベーターに乗った男。エレベーターの影が美しく壁におちる。
──エレベーターに乗っている男は、ハリー自身。上を見上げている。
──「RING IN THE 1943 NEW YEAR」の看板が出ている劇場前の広場。奥には三脚に乗せたニュースムービーのカメラ。スチールカメラのフラッシュも光る。
ゆっくりと進むパレードの車とともに歩くのは、若い兵隊たち。ボールを片手に、まわりに手を振っている。

鏡の中の顔を凝視するハリー。
──広場で抱き合う女と兵隊たち。
──ひたすら下降していくエレベーターの中で、ハリーは目を閉じる。
──長方形の窓が並ぶアパートの壁面。窓で1つだけオレンジの照明が灯り、換気扇が回っている。
──下降していくエレベーターの中のハリー。
──劇場前の広場でにぎやかに騒ぐ人たち。
──長方形の窓が並ぶアパートの壁面。1つだけオレンジの照明が灯る窓へカメラが寄っていく。
──劇場前の広場、人をかきわけていくと、女性とキスしている若い兵隊。
鏡の中の顔を凝視するハリー。
──女性とキスしている若い兵隊の右に視線をうつすと、別のしっかりした体格をした兵隊の背中に近づいていく。
その兵隊の肩に手を置くと、振り返って顔が少しだけ見える。
「あああー」という叫びが重なる。

電話ボックスでぼーとしているハリーのジャケットを、背中からひっぱる手。
はっとして振り返ると、サクソフォン吹きの黒人が気さくな笑顔で話しかけてくる「一曲どう?」
影でほとんど見えないハリーの顔だが、頬のあたりに汗をかいているのが見える。「びっくりさせるな」

フラッシュバック

鏡に映る自分の顔を、他人を見るような目で見つめるハリー。
そして断片的に見えるフラッシュバックの映像。1943年(今のハリーの時制から12年前)のニューヨーク、若い兵隊が歓迎され、にぎやかに女性と抱き合うこのパレードは、新年を迎えるにあたって帰還してきた兵隊を祝うものでしょうか。
体格のいい兵隊の背中から、左肩に手をかける主観映像が挟まります。振り返る兵隊の顔は、誰だか分かりません。
長方形の窓が並ぶアパートの外壁が、ニューヨークっぽいですね。深夜なのか、1つだけオレンジの照明が灯る窓へ、カメラが寄っていきます。窓の下には換気扇がはめこまれています。そこに男の叫び声が重なっていきます。秘かに恐ろしいことが行われたことを連想させるイメージです。12年前といえば、ジョニーが姿を消した年です。

マーガレットの死

ストリートで手拍子をとりながら、タップをする黒人の子ども達。

ペパーミントグリーンの扉を開けて入っていくハリー。ピアノの単音で奏でられる音楽がはじまる。
暗いエントランスに入りかけるが、何か気になったとでもいう感じで、扉まで戻って、少し開いた隙間から外の様子をうかがう。
タップダンスをする足元がアップになる。
階段を上がっていくハリー。

ハリーは、マーガレットの部屋へ入りかける。が、ドアに手をかけたまま立ちつくしてしまう。
視線の先には、マーガレットが血まみれで倒れていた。ドレスは引き裂かれ、片方の胸をさらけ出して。
死体に近づいていくハリー。唾を飲み込み、嗚咽を堪えるように口をおさえ、泣きそうな顔になる。
足元に何かあることに気付く。
ペンタグラムの入った首飾りをしたマーガレットの美しい顔には、血が飛び散っている。
嗚咽を堪えつつ足元に落ちていた何かを拾い上げる。それはここを訪れた時、興味深くいじくりまわしていた、刃先が弧になっている短刀だ。拾い上げた短刀を放り投げるハリー。
部屋の隅へ行き、置いてあるものを順に調べていく。
籠の中のネックレス、ブレス類、隣の箱にもネックレス、籐の蓋付きボックスにはドライフラワー、その横にはボーリングのピンのようなカタチのガラス製の化粧瓶が立っている。その化粧瓶を手に取ってみる。カラカラと中になにか固いものが入っている音がする。つづけて他の箱もざっと見て、ブルーとゴールドの花柄パターンでできた蓋付きの箱を開いてみる。中には人の右手のミイラが収められていた。それを手にとってみる。
──タップダンスをする足元。
タップの床を蹴る音に合わせ、右手のミイラを箱に放り込む。
ルーズリーフ式のスケジュールノートを見ていく。
──タップダンスをする足元。
「水曜日・ハリー・エンゼル・1:30」と書かれたページを破って丸める。
──タップダンスをする足元。
こちらに向かって近づいてくるハリーは、どんどん哀しそうな目つきに変わる。
マーガレットの死体に近づいていると思わせておいて…
──タップダンスをする足元が一瞬挟まる。
人の叫び声のような効果音とともに、紙の上に切り出された心臓が置かれているのが目に入る。
──タップダンスが止まる。

マーガレットの死

マーガレットは殺されていました。ハリーは、彼女に対して、憧れのような気持ちを抱いていたように見えます。ウィラー医師の時とは違って、死体を前に感情的でウェットな反応をします。泣きそうになるのです。
凶器は、前回ハリーがここを訪れた時、落ち着かなげにいろいろいじって手にしていた、装飾的な短刀。
ファウラー医師、トゥーツ、マーガレットともに、殺害の凶器は、直前にハリーが手にしたものばかり。完璧な殺人容疑者です。
ハリーはここでもファウラー医師の死体を前にした時と同じように、家捜ししつつも自分の形跡を消しにかかります。
そしてアラン・パーカー節が冴えます。タップダンスをする足元のアップを何度もインサートさせ、タップの早いリズムを心臓の動悸にシンクロさせて緊張感を高めていきます。ハリーは何かに気づいて画面奥から手前にやってきて、どんどん哀しそうな顔になっていくから、てっきりマーガレットの残忍な死体に改めて近づいていってるものと思ったら、いきなり心臓のアップですよ。うまい。やられた。
切り出された心臓。彼女の場合は、心臓を切り出した罪に対する罰でした。悪魔崇拝者だったわけですから、悪魔の力を知らなかったわけではないはずですが、あまりに残忍な殺され方です。

十字架を掲げる聖人像が飾られたバーのカウンターで、ハリーは物思いにふけっていた。
入口ドアの上には、大きな換気扇が回っている。日中のバー店内にはハリー1人だ。
短くなった煙草を灰皿におしつけると、グラスの酒をあおり、そのまま手に持ったグラスを、額におしつけ頭をもたげる。そしてグラスを両手で挟むと、祈るように構え、カウンターの上に額を押しつけて、何度も額を打ち付けるハリー。かなり凹んでいるように見える。

ハリーはかなり堪えているようです。
憧れの気持ちを抱いていたマーガレットの死によって、ジョニーの行方を辿る道筋はすべて断たれてしまいました。
自分が会わなかったら、あの人が死ぬことはなかったのでは?女性に優しいハリーだから、そんなことも思っていたかもしれません。
そして何となく不安が大きくなってきているようです。自分を襲う記憶にない記憶のフラッシュバック。自分という存在の不確かさを、にわかに自覚しはじめていたのかもしれません。

マーガレットの父親からの刺客

中年女性が叫んでいる。両脇から支えられて下半身を川の中に浸している。
少し離れて川に立っている女性が、川岸で見物している人々に向かって大きく手を振って、歌を歌っている。祈祷による民間療法なのだろうか。

その光景が見える場所に、木製の橋がかかっており、一台の車が通りすぎる。
運転しているのはハリーだ。片手運転しながら、ふと後方を気に掛ける。
さきほど通った橋を赤トラックが渡ってくる。
一本道しかない田舎、赤いトラックは、ずっと後をついてきている。尾行か?
バックミラー越しに後方を確かめた後、ハリーは道ばたに車を駐め、降りて歩き出した。
後ろからはまだ赤いトラックがついてきている。
ハリーは道から奥に入り、川の対岸にある漁師の家につづく桟橋を、後ろを気にしながら歩いていく。
桟橋の先には、牡蠣の殻を開く作業をしている大柄の男がいた。ハリーはその大柄な男に気軽に声をかける。「空腹なんだ。それ、売らないか?」観光しているかのように装いながら、追っ手が来ないか気に掛けている。
赤いトラックはハリーの車の後ろにつけ、ドーベルマンを従えた男2人が降りてくる。
牡蛎の男が10セントというと、「一袋くれ」ハリーが金を出そうとした時、桟橋の端でドーベルマンが放たれ、吠えながら走ってきた。ハリーは焦って逃げるが、犬は飛びかかってくる。
追っ手の2人は、犬の後を慌てずに歩いてくる。
ハリーは左足に噛みついた犬をなんとかしようと、そのへんにある棒を手にして、必死に払いのけようとする。だが追いついてきた男もそのへんの棒を手に取り、思い切りハリーの背中を叩き付けた。カニを詰めた木製の箱に倒れ込んだハリーは、その箱ごとひっくり返って、浅瀬にぶざまな格好で突っ伏してしまった。棒を持った男は、そんなハリーの襟首を掴んで顔が見えるようひっくり返すと、胸に棒を当て押さえ付ける。「よく聞くんだ。今すぐこの町から出ろ。」
ハリーはじたばたとして、攻撃をしかけようとしている犬に「こいつをどかしてくれ!」と頼み込む。
男は念を押すように言う。「マーガレットの父親からの伝言だ」

川の浅瀬にひっくり返るハリーのぶざまな格好といったら!こういう画面があるから、私はこの映画で、ハリー=ミッキー・ロークに惚れたんですよね(笑)私立探偵だから、刑事のように国家権力をふりかざすワケじゃない。危険な面とやさしさを合わせ持つところが憎めない奴です。

ジョニーと関係のあった人物が次々と殺され、八方ふさがりになってしまいましたが、ぼこぼこにされたことで新たなルートが開けました。マーガレットの父親。あの占いの部屋で2人の間に置いてあった写真立ての中の男。
ハリーを脅してまでこの町から追い出したいということは、少なくてもハリーを殺人の容疑者とは思っていないようです。

映画「エンゼル・ハート」を読む  |123456789次のページ>>


Writing is reusable solely under the BY-NC-SA Creative Commons License.

*申し訳ありませんが、コメント、トラックバックは[1]か、[8][9]へお願いいたします。

コメントは受け付けていません。